オペラ・声楽店

ブリリアントに流れたインバルのラヴェル全集
　イスラエル出身の指揮者エリアフ・インバルは，フランクフルト響を一流の楽壇へと育て上げたことで有名で，特にマーラーの指揮の上手さには定評がある人物。意外にもフランスとも縁があり，1980年代後半には，フランス国立管弦楽団と組んで４枚のラヴェル作品集を出しファンを驚かせた。その４枚からなるインバルのラヴェルが，またしてもブリリアント・クラシックスに質流れ。なんと４枚組で1400円という，最近安売りに走っているEMIすら顔面蒼白な激安価格で登場した。

　一応フランスのトップ・オーケストラによるラヴェルが全部聴けてしまうこの４巻組，聴き比べのネタにするだけでも買う価値はあるのでは。確かに，くだんの『ダフニス』や『亡き王女』などで表出する，非フランス人特有の妙なテンポ!・ルバート感覚やリズムのアクセント配置には首を傾げざるを得ない。しかし，こうしてまとめて聴くと意外に悪くない。過度な表情をつけず，すっきりとした輪郭とドライな流動感を持つ演奏は，淡泊で物足りない面もあるだろう。それでも，『マ・メール・ロワ』などは，その持ち味が生きた，都会的な相貌の好演だし，全集を謳うだけに編曲ものまで網羅。そして何よりこの異様な安価。下手に古い録音でお高い巨人ものを聴くより，お買い得感は遙かに上なのではないか。