オペラ・声楽店

追悼　カルロス、貴方は偉大だった
先月クライバー夭逝のニュースが届いた。
彼は決して好きなタイプの指揮者では無かったが、カラヤンに比べれば遥かに芸術家であった事は認めざるを得ない。
ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを見終わった後、しみじみと彼が芸術家でありウィーン人そのものである事を実感したものだ。
彼に比べるとその前後にムジークフェラインザールに登場した指揮者達が何とも小粒＆優等生的でつまらなかった事か…。
健康上の理由から近年ステージに立つ事が無くなったクライバーだが、一度はそのステージに触れてみたかったと今更ながらに悔しく残念でならない。

彼はその知名度からするとレコーディングに於て非常に寡作だった。
そんな中でもベートーベンは定評のあるところだが…。
多くの国内評論家諸氏が挙って絶賛した「第７」だが、私には未だその良さが全く判らない。全編が浮ついた落ち着きの無い単なる狂気乱舞の世界に過ぎないのではないか？
同じウィーンフィルを振った「第５」も現代の規範となるカッコイイ演奏には違いないのだが芸術性に乏しく残念。
また「第６」に至っては論外で、田園的な大らかさや愉悦感が微塵も感じられなかった。あれは一体何なのだろうか？

そんな中にあって唯一素晴らしいのがこの「第４」だ。
ライヴ録音独特の緊迫感と随所に感じられる歌心＝これこそ彼が残した交響曲録音中の最高傑作と推したい。
ここではウィーンフィルと録音した他の曲とは明らかに別次元の、余裕すら感じる素敵な演奏が展開されている。
彼と共に数々の名演奏を重ねた手兵バイエルンシュターツオーケストラが完全に彼の手足となり、聴衆と共に楽しみながらこの名演を生み出している様が感じられる。

ニュースを知った晩、このCDと「魔弾の射手」を立て続けに聴き、改めて一つの事を悟った。
貴方はきっとオケピットに人生を捧げたのですね！
カルロス、貴方はやはり偉大だった。
神業
「英雄」と「運命」の間に生まれたこの曲を「ギリシャの乙女」と評した人もいた。しかしこの曲の悪魔的で狂乱的な雰囲気をこれだけ率直に表した演奏もない。第１楽章の序奏から一気に第１主題へ入るところの颯爽とした流れ、そして第２楽章の情緒的ながらストイックな律動、そして第３楽章のバネのような跳ね回りと第４楽章の無窮動ぶり。それを楽譜に素直に形にしたのがこの演奏だ。この演奏の前にも後にもない素晴らしい怪演もとい快演だ。これを聴きながらの夏のビールは美味い。ただそれだけだ。
☆★☆★☆この演奏を聴かずしてクライバーを語るなかれ☆★☆★☆
生前、「親子そろって飛び切りの天才…」と言っていたK.ベーム爺の追悼演奏会のライブですね。我々凡人がクライバーの演奏について論評することは許されてなく、ただただ“聴く”だけなのですが、この演奏についてはその禁を破り、「ウソではない歴史的な超名演、空前絶後、壮絶・超絶、鳥肌が立ち、身震いし、寒気と熱気が同時に押し寄せ、息苦しいまでの恐れと快感、驚愕、足もすくみ、手もワナワナ…」と叫びたいほどの演奏です。音楽のデーモンがクライバーに憑依したのか、クライバーがその本性を剥き出しにしてしまったのか…とにかく、この演奏を聴かずして天寿を全うすることはできません。
★☆★☆★この演奏を聴かずしてクライバーを語るなかれ★☆★☆★
クライバーのことを「…親子そろって飛び切りの天才…」と言っていたＫ.ベーム爺の追悼演奏会のライブですね。音楽のデーモンがクライバーに憑依したのか、クライバーが本性を露わにしたのか…。“ウソではない歴史的な超名演、超絶・壮絶・身震い、恐れ、寒気、鳥肌立つ演奏”とは、このような演奏のことです！！！これを聴いた上で天寿を全うすることができる人は、この上なく幸福な人です。